「ここに住んでいるの?」
キョーコのアパートの前。呆然とする蓮に答える。
「そうですよ。確かに凄く古くて小さいですが日当たりは完璧です」
「いや、古いとか小さいとかではなくて…」
あのアパートだ。俺が逃げ込んだ、小さな箱。
「送って頂きありがとうございました」
「あ、最上さん」
階段を上がろうとしたキョーコを呼び止める。
「…君には、頼れる人がいる?」
蓮の問いに少し笑って。
「…おやすみなさい」
いないのか?信頼して頼る人が。弱い君を受け入れてくれる人が。
二階の窓の一つに明かりが点いて、レースのカーテンにキョーコの小さな影が映る。
頼り無げにゆらゆらと揺れたそれは、暫くして闇の中に消えた。
「クオン君!!」
現れた彼女は半泣きで。
「おかえり」
手に持っているのは、あの頃読んでた本だ。
「よかった…いつものクオン君で…」
「どうした?」
「…」
「キョーコ?」
本を伏せて立ち竦む彼女に近づく。
「何かあった?」
「…なにも」
「じゃあ何でそんな泣きそうな顔してる?」
答えない彼女の身体を抱き締めて。
「キョーコは俺に立ち向かう勇気と自信をくれたんだ…だから俺も、キョーコの力になりたい」
「うん…」
「つらい時は俺を頼って?何も出来ないかもしれないけど」
「…うん」
彼女の腕が自分の背中を抱こうとして。そのまま胸に手を付き、ゆっくりと距離を取る。
「私には、今の言葉だけで充分だから…」
嘘だ。君はきっと、寂しくて悲しくて泣いている
夢の中の自分と今の自分が急速にリンクしていく。今までの夢の記憶も、気持ちも、全て波のように押し寄せて今の自分を包み込んでいく。
時計は5時半を指していた。
- 2013/12/28(土) 07:53:31|
- クロスワールド (完)
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